中川 統雄
Composer, Pianist, Mastering Engineer
thEQorange は他の EQ とは一線を画す卓越した EQ で、その理由は多岐にわたります。まず、IIR ベースのリニアフェイズ設計を採用しているため、一般的な FIR フィルターの欠点であるリンギング(フィルターが原因で発生する音の残響や波打ち現象)が極めて少ないのが特徴です。また、FIR フィルターによるリニアフェイズ EQ では、周波数分解能と時間領域での精度の両立が難しい場合がありますが、IIR による高度なリニアフェイズ EQ である thEQorange は、この二つを非常に高い次元で両立しています。
さらに、thEQorange はトランジェントスムージングの問題にも対応しており、他のリニアフェイズ EQ ではトランジェントが丸められ、鋭さが失われがちですが、thEQorange ではその影響が極めて少なく、特にトランジェントが重要な音源においても音の鮮明さを保ちます。これにより、ミキシングやマスタリング作業において高い信頼性を持ちます。
また、内部処理には高精度な 80bit が採用されており、IIR フィルター特有のフィードバックループによる計算誤差の蓄積やノイズを極限まで抑えています。これにより、他のEQでは得られない透明な音質を実現しています。
使用感
私はまず、DC コンタミネーション(DC オフセットや低域アーティファクト)対策として、ローエンドにハイパスフィルターを入れる際に thEQorange を使用します。この目的では、他のプラグインは使用しません。thEQorange の効果は他の EQ と比較すると一聴瞭然で、あたかも「元からそのような音源であった」かのように自然に処理を行います。DC コンタミネーション問題を thEQorange で適切に対処すると、それまで濁っていた音が驚くほどクリアーになります。
他の EQ では、処理後に「輪郭」のようなものが感じられ、EQ をかけたことが明確に分かってしまうことがあります。しかし、thEQorange ではそのような問題がなく、処理が非常に自然です。
さらに、多数のポイントを使用して複雑な EQ カーブを描いた場合、その差は一層明確です。複雑なカーブを用いた際、他の EQ では位相の乱れやリンギング、トランジェントスムージング、IMD の発生、累積スペクトル減衰の遅延、レゾナンスの強調といった副作用が顕著に現れます(特にピアノやドラムでは顕著です)。しかし、thEQorange ではそうした副作用が極めて少なく、他の EQ とは比較にならないほど自然な処理を行います。もちろん、完全に副作用がゼロというわけではありません が、その影響は非常に小さく、私にとってクリニカルな処理には欠かせない EQ です。